年次有給休暇の基本

 年次有給休暇について、「昔からこの方法で運用している」「前任者から引き継いだ方法で処理している」という会社も少なくありません。しかし、年次有給休暇には、付与日数や取得方法、年5日の取得義務など、法律上さまざまなルールが定められています。

特に、パート・アルバイトへの年次有給休暇の付与や、出勤率の計算、年5日の取得義務については、実務上誤解されやすいポイントです。

本記事では、年次有給休暇の基本的なルールから、企業が実務上注意しておきたいポイントまで解説します。

1 年次有給休暇の付与要件

年次有給休暇は、原則として、次の2つの要件を満たした労働者に付与されます。

(1)6か月継続勤務していること
(2)全労働日の8割以上出勤していること

正社員だけでなく、パート・アルバイトについても、この要件を満たせば年次有給休暇が付与されます。

(1)6か月の継続勤務

 1つ目の要件は、雇入れの日から6か月継続勤務していることです。

 例えば、2026年1月1日に入社した場合、原則として2026年7月1日に最初の年次有給休暇が付与されます。

 ここでいう「継続勤務」とは、会社に在籍している期間を意味します。そのため、実際に出勤している期間だけで判断するものではありません。

 例えば、私傷病による休職期間がある場合でも、その期間中に雇用関係が継続していれば、継続勤務期間には含まれます。

(2)全労働日の8割以上出勤

 2つ目の要件は、対象期間の全労働日の8割以上出勤していることです。

 「全労働日」とは、原則として、就業規則や会社カレンダーなどで労働義務があると定められている日のことです。そのため、単純に暦上の平日の日数で計算するわけではありません。

 例えば、6か月間の全労働日が120日であれば、

 120日×0.8=96日

 となるため、原則として96日以上出勤していれば、8割以上の出勤要件を満たすことになります。

 なお、出勤率の計算では注意が必要です。業務上の負傷・疾病による休業期間、産前産後休業、育児・介護休業などは、法律上「出勤したもの」として取り扱います。

 単純に「実際に会社に来た日」だけを数えてしまうと、出勤率を誤って計算する可能性があるため注意しましょう。

2 年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇の付与日数は、継続勤務年数や週の所定労働日数、週の所定労働時間などによって異なります。

(1)通常の労働者の付与日数

 週所定労働時間が30時間以上の労働者や、週所定労働日数が5日以上の労働者などについては、原則として次の付与日数となります。

 最初は、雇入れから6か月後に10日付与され、その後、一定の要件を満たせば継続勤務年数に応じて11日、12日、14日と増加し、最終的には20日となります。

(2)パート・アルバイトの付与日数

 「パート・アルバイトだから有給休暇はない」という取扱いはできません。

 パート・アルバイトであっても、週所定労働時間が30時間以上の場合や、週5日以上勤務する場合などには、原則として(1)の通常の労働者と同じ日数の年次有給休暇が付与されます。

 一方、週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下などの労働者については、所定労働日数に応じて年次有給休暇が比例付与されます。

 「正社員かパートか」という雇用区分だけで判断するのではなく、週所定労働時間や週所定労働日数を確認することが重要です。

3 年次有給休暇の取得方法と時季変更権

 年次有給休暇は、原則として、従業員が取得したい日を指定して取得します。

 例えば、従業員が「10月1日に年次有給休暇を取得したい」と申し出た場合には、原則として、その日に取得させる必要があります。

 ただし、その日に年次有給休暇を取得させることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、会社は時季変更権を行使し、別の日に変更することができます。

 もっとも、単に「忙しいから」「人手が足りないから」という理由だけで当然に変更できるわけではありません。

 時季変更権を行使できるかどうかについては、事業の内容や規模、労働者の担当業務、代替要員の確保などを踏まえて判断する必要があります。

4 年次有給休暇を取得した日の賃金

 年次有給休暇を取得した日の賃金については、主に次の3つの方法があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(1)平均賃金
(2)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
(3)健康保険法上の標準報酬月額の30分の1に相当する金額
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、どの方法で年次有給休暇中の賃金を支払うのかについては、就業規則等に定めておく必要があります。会社が年次有給休暇を取得するたびに自由に計算方法を選択するものではありません。

 実務上は、年次有給休暇を取得しても通常どおり賃金を支払う方法が多い印象です。

5 年次有給休暇の時効

 年次有給休暇の権利は、付与日から2年間で時効により消滅します。

 そのため、前年度に使い切れなかった年次有給休暇については、原則として翌年度に繰り越されます。

 例えば、ある年度に20日の年次有給休暇が付与され、10日しか取得しなかった場合には、残りの10日は翌年度に繰り越されます。

6 年5日の年次有給休暇取得義務

 2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与される従業員について、会社には、付与日から1年以内に5日以上の年次有給休暇を取得させる義務があります。

 対象となるのは正社員だけではありません。パート・アルバイトや有期契約労働者、管理監督者についても、その年に法定の年次有給休暇が10日以上付与される場合には対象となります。

 ここで注意したいのが、「繰越分を含めて10日以上あれば対象」というわけではない点です。その年に新たに法定付与される日数が10日以上であるかどうかで判断します。

 また、会社が必ず5日すべてを指定しなければならないわけではありません。

 例えば、従業員がすでに3日取得している場合には、会社が時季指定する必要があるのは残り2日です。計画的付与によって取得した日数についても、5日から控除することができます。

つまり、

ーーーーーーーーーーーー
「従業員本人による取得」
「計画的付与」
「会社による時季指定」
ーーーーーーーーーーーー

 を合計して、1年間で5日以上取得させればよいことになります。

 一方で、本人がすでに5日以上取得している場合には、会社がさらに時季指定を行う必要はありません。

 会社が時季指定を行う場合には、あらかじめ従業員の意見を聴き、その意見を尊重するよう努める必要があります。

 また、会社による時季指定を行う場合には、その対象となる労働者の範囲や時季指定の方法などについて、就業規則に定めておく必要があります。

【就業規則の規定例】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第〇条
 年次有給休暇が10日以上与えられた従業員に対しては、付与日から1年以内に、当該従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、従業員が年次有給休暇を取得した場合等においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

7 年次有給休暇管理簿の作成も必要

 年5日の取得義務とあわせて見落とされやすいのが、年次有給休暇管理簿です。

 会社は、従業員ごとに、

ーーーーーーーーーーーー
・年次有給休暇の基準日
・取得した日付
・取得日数
ーーーーーーーーーーーー

 を明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、保存する必要があります。

 「有給休暇の申請書は保管しているから問題ない」と考えるのではなく、誰にいつ年次有給休暇を付与し、何日取得しているのかを確認できる状態にしておくことが重要です。

 特に、従業員ごとに入社日が異なる会社では、年5日の取得期限も従業員ごとに異なる場合があります。取得漏れを防ぐためにも、年次有給休暇管理簿を活用して定期的に取得状況を確認しましょう。

8 まとめ

 年次有給休暇は、単に「休みを与えればよい」という制度ではありません。

 付与要件や付与日数、出勤率の計算、パート・アルバイトへの比例付与、年5日の取得義務、年次有給休暇管理簿など、会社が対応しなければならないルールが多数あります。

 特に、「昔からこの方法で運用している」「前任者から引き継いだ方法なので問題ないだろう」と考えている場合には、一度現在の運用を確認してみることをおすすめします。

 凪社会保険労務士事務所では、高松市・香川県を中心に、全国の企業様を対象として、労務相談、就業規則の作成・見直し、労務監査などのサポートを行っています。

 高松市の社会保険労務士として、実務に即した分かりやすいサポートを心がけています。オンライン相談にも対応しているため、香川県外・全国の企業様からのご相談も可能です。

 また、無料の簡易労務診断も実施しておりますので、労務管理の状況を把握しておきたい企業様は、お気軽にご連絡ください。
【簡易労務診断】https://nagi-sr.com/labor-diagnosis/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次