固定残業代とは?企業が知っておくべき有効要件と注意点

 固定残業代は、多くの企業で採用されている賃金制度の一つです。
 一方で、「他社もやっているから大丈夫」「昔からこの方法で支払っている」といった理由で制度の見直しが後回しになり、未払い残業代などの労務トラブルにつながるケースもあります。
 特に注意したいのが、固定残業代を支給しているからといって、何時間残業しても追加の残業代を支払わなくてよいわけではないという点です。
 制度設計や運用を誤れば、多額の未払い残業代が発生する可能性もあります。
 本記事では、固定残業代の基本的な仕組みから、有効性を判断する際のポイント、計算方法、企業でよく見られる問題事例まで、実務の視点から解説します。


1 固定残業代とは

 固定残業代とは、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働などに対する割増賃金として、あらかじめ定額で支払う賃金をいいます。
「みなし残業代」「定額残業代」などと呼ばれる場合もあります。
例えば、
・基本給 250,000円
・固定残業手当 ○○円
・固定残業手当は法定時間外労働25時間分として支給する
といった形です。
 ここで重要なのは、固定残業代は実際の残業時間が固定残業時間に達しなかった場合でも、あらかじめ定めた金額を支払う制度だということです。
 逆に、実際の時間外労働等に対して法律上必要となる割増賃金が固定残業代の金額を上回った場合には、その差額を追加で支払う必要があります。
 なお、「25時間分の固定残業代」とする場合でも、その金額は基本給だけで一律に決まるものではありません。
「1時間当たりの賃金額 × 割増率 × 固定残業時間数」
を基礎として計算します。
 固定残業代を設計するときは、割増賃金の算定基礎となる賃金や月平均所定労働時間などを確認したうえで金額を設定する必要があります。


2 固定残業代が有効と認められるためのポイント

 固定残業代については、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
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(1)通常の賃金と固定残業代を判別できること
 まず重要なのが、通常の労働時間に対する賃金と固定残業代部分を判別できるようにしておくことです。
 例えば、
「基本給300,000円。ただし25時間分の残業代を含む」
 という記載だけでは、300,000円のうち、いくらが通常の賃金で、いくらが固定残業代なのか分かりません。
 これに対して、
「基本給250,000円固定残業手当50,000円(法定時間外労働○時間分)」
 など、通常の賃金と固定残業代を区分しておけば、固定残業代の金額を明確に確認できます。
 通常の賃金部分と割増賃金部分とを判別できる状態にしておく必要があります。
(2)時間外労働等の対価として支払われていること
 手当の名称を「固定残業手当」とすれば、それだけで固定残業代として認められるわけではありません。その手当が、実質的に時間外労働等に対する対価として支払われている必要があります。
 固定残業代として支払うのであれば、「この手当は法定時間外労働25時間分の割増賃金として支給する」など、その性質を雇用契約書や就業規則等で明確にしておくことが重要です。
(3)固定残業代を超える割増賃金を支払うことの合意
 例えば、法定時間外労働25時間分の固定残業代を支給している従業員が、実際には30時間の法定時間外労働を行ったとします。
 この場合、固定残業代を支払っているからといって追加の残業代が不要になるわけではありません。固定残業代で賄えない5時間分については、別途割増賃金を支払う必要があります。
 差額を支払う旨の合意を固定残業代制度の独立した有効要件とするかについては議論がありますが、固定残業代を超える法定の割増賃金について支払義務が生じること自体に変わりはありません。
したがって実務上は、
「固定残業代の対象時間を超える時間外労働等については、別途割増賃金を支給する」
旨を雇用契約書や就業規則等に明記しておくことをおすすめします。
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3 固定残業代の計算方法

 固定残業代を導入するときは、単に「25時間なら○万円」と感覚的に金額を設定してはいけません。
例えば、法定時間外労働のみを対象とする場合には、概ね、
1時間当たりの賃金額 × 割増賃金率(1.25以上) × 固定残業時間数
 によって必要額を確認します。
 ただし、1時間当たりの賃金額を計算する際には、割増賃金の算定基礎となる手当の取扱いや月平均所定労働時間なども確認する必要があります。


4 実務上よく見られる固定残業代の問題事例

(1)雇用契約書や就業規則に固定残業代について十分な記載がない
 「給与30万円」とだけ記載し、入社後になって会社側が「そのうち5万円は固定残業代です」と説明するような運用はトラブルの原因になります。
 固定残業代を採用するのであれば、採用時から、
・固定残業代を除いた基本給の額
・固定残業代の金額
・固定残業代の対象となる時間数
・対象時間を超えた場合には追加で割増賃金を支払うこと
 などを明確にしておくことが重要です。
(2)固定残業時間を超えているのに追加の残業代を支払っていない
 固定残業代について最も注意すべきケースです。
 例えば、法定時間外労働25時間分として固定残業代を支払っている従業員が、毎月30時間残業しているにもかかわらず、会社が追加の5時間分を支払っていないケースです。
 この状態が1年間続けば、毎月の不足額が未払い賃金として積み上がっていきます。
 複数の従業員について同様の運用を行っていた場合には、会社全体として大きな金額になる可能性があります。
 そのため、固定残業代を導入していても、実際の労働時間を正確に把握する必要があります。
(3)固定残業代を払っているため労働時間を管理していない
 固定残業代は、労働時間管理を不要にする制度ではありません。固定残業時間を超えていないか確認するためにも、実際の労働時間を把握する必要があります。「固定残業代を払っているからタイムカードは確認しなくてよい」という運用は難しいです。
(4)固定残業代があるから36協定は不要だと考えている
 固定残業代と36協定は別の制度です。固定残業代は「割増賃金をどのように支払うか」という賃金の問題であるのに対し、36協定は「法定労働時間を超えて労働させることができるか」という労働時間の問題です。
 固定残業代を支給していても、法定時間外労働や法定休日労働を行わせるのであれば、原則として36協定の締結・届出が必要です。

5 固定残業代制度を採用するメリットと注意点

<メリット>
 
固定残業代の範囲内であれば、毎月支払う残業代の金額が一定になるため、企業側としては一定程度、人件費を予測しやすくなります。
 また、給与体系を適切に設計すれば、従業員にとっても毎月一定額の賃金が確保されるという側面があります。
<注意点>
一方で、固定残業代を導入していても、労働時間管理や割増賃金の計算が不要になるわけではありません。
少なくとも毎月、
・実際の時間外労働時間
・休日労働時間
・深夜労働時間
・法定の割増賃金額
・固定残業代との差額
を確認できる体制を整えておく必要があります。
 固定残業代を導入することで残業代管理を簡略化したつもりが、制度設計を誤った結果、かえって大きな未払い残業代リスクを抱えることもあります。


6 まとめ

 固定残業代は、それ自体が違法な制度ではありません。
 しかし、
「固定残業代を払っているから残業代は追加で払わなくてよい」
「昔からこの給与体系だから問題ない」
 という認識で運用すると、未払い残業代などの問題につながる可能性があります。
 重要なのは、制度を導入した時点だけではなく、現在の給与体系・雇用契約書・就業規則・実際の労働時間が整合しているかを定期的に確認することです。
 凪社会保険労務士事務所では、高松市・香川県を中心に、全国の企業から労務管理に関するご相談を承っています。
固定残業代制度の確認をはじめ、就業規則、36協定、労働時間管理、未払い残業代リスクなどについて、元労働基準監督官の経験を踏まえ、実務的な観点からサポートいたします。
「現在の固定残業代制度に問題がないか確認したい」
「雇用契約書や就業規則を一度チェックしてほしい」
といった場合も、お気軽にお問い合わせください。

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