定期健康診断と実施後の措置

 定期健康診断について、「受けるかどうかは本人次第」「会社は案内を出しているから問題ない」と考えていないでしょうか。

 実は、定期健康診断は、単に従業員へ受診の機会を案内すればよいものではありません。労働安全衛生法では、会社に対して、対象となる労働者に健康診断を実施することを義務付けています。

そのため、健康診断を案内したものの、未受診者をそのまま放置している場合には注意が必要です。

 また、健康診断は「受診して終わり」ではなく、結果の保存、異常所見がある従業員についての医師への意見聴取など、その後の対応も必要です。

 本記事では、定期健康診断について、会社が押さえておきたい対象者、未受診者への対応、健康診断実施後の措置などを実務上のポイントとともに解説します。

1 定期健康診断は会社の義務

 労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第44条では、事業者は「常時使用する労働者」に対して、1年以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を実施しなければならないと定めています。

 「会社から健康診断の案内はしたので、あとは本人次第」という扱いでは十分とはいえません。対象となる従業員が実際に受診しているかを確認し、未受診者がいれば受診を促すなどの対応が必要です。

 したがって、未受診者がいる場合には、単に放置するのではなく、

「なぜ受診していないのか」
「別の医療機関で受診していないか」
「いつまでに受診できるのか」

 などを確認し、受診につなげることが重要です。

2 定期健康診断の対象者|パート・アルバイトも対象になる

 定期健康診断の対象となるのは、正社員だけではありません。

 パート・アルバイトなどの短時間労働者についても、一定の要件を満たす場合には健康診断を実施する必要があります。

具体的には、原則として次の2つの要件をいずれも満たす場合です。

(1)期間の定めのない労働契約で使用されている、または1年以上使用されることが予定されている、もしくは1年以上引き続き使用されていること

(2)1週間の労働時間数が、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

 例えば、正社員の1週間の所定労働時間が40時間であれば、週30時間以上勤務するパート従業員については、(1)の要件も満たしていれば定期健康診断の対象となります。

 「パートだから健康診断は不要」と一律に判断しないことが重要です。

(参考)労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/001696789.pdf

3 定期健康診断の検査項目

 定期健康診断では、労働安全衛生規則第44条により、主に次の項目について健康診断を実施します。

1 既往歴及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査
5 血圧の測定
6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7 肝機能検査(AST、ALT、γ―GT)
8 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9 血糖検査
10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11 心電図検査
12 血清クレアチニン検査(令和9年4月1日から)

 会社の判断だけで自由に検査項目を省略できるわけではない点には注意が必要です。

4 健康診断の費用と受診時間の取扱い

 定期健康診断は、会社に実施義務が課されていることから、その費用は会社が負担すべきものとされています。

 一方、定期健康診断を受診する時間については、当然に労働時間として賃金を支払わなければならないとされているわけではありません。

 厚生労働省は、受診時間の賃金については労使間の協議によって定めるべきものとしつつ、健康診断を円滑に受診できるよう、会社が受診時間の賃金を支払うことが望ましいとしています。

 なお、有害業務に従事する労働者を対象とした特殊健康診断については取扱いが異なり、受診時間は労働時間となります。

5 健康診断の未受診者を放置しない

 定期健康診断の実務で特に注意したいのが、未受診者への対応です。

 会社が健康診断の日程を案内していても、出張、休暇、本人の都合などにより受診できない従業員が生じることがあります。

 このような場合、「会社は案内したのだから、受けなかった本人の責任」としてそのままにするのではなく、再度受診の機会を設ける、別の医療機関での受診を案内するなど、実際に健康診断を受診できるよう対応することが重要です。

 また、本人が健康診断を拒否している場合には、会社にも健康診断の実施義務があり、労働者にも受診義務があることを説明したうえで、改めて受診を促しましょう。

 口頭だけでなく、メールや書面などで受診勧奨の記録を残しておくことも実務上有効です。

 「一度案内したから会社の義務は果たした」と考えるのではなく、対象者の受診状況を管理することが重要です。

6 健康診断は実施後の対応も必要

 定期健康診断は、受診させれば終了というものではありません。

 会社には、健康診断の結果について、その後も一定の対応が求められます。

 まず、健康診断の結果に基づいて健康診断個人票を作成し、5年間保存しなければなりません。

 また、健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員については、従業員の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければなりません。

 定期健康診断の場合、原則として健康診断が行われた日から3か月以内に意見聴取を行います。

医師からは、例えば、

「通常勤務で問題ない」
「時間外労働を一定時間以内に制限する」
「深夜勤務を制限する」

といった就業上の措置について意見が示されることがあります。

 会社は、その医師の意見を踏まえ、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの適切な措置を講じる必要があります。

7 産業医がいない会社はどうする?

 常時使用する労働者が50人未満の事業場など、産業医を選任していない会社でも、異常所見者について必要な医師の意見聴取を行わなければならないことに変わりはありません。

このような小規模事業場では、地域産業保健センターを利用できる場合があります。

 産業医がいないからといって、健康診断後の対応を行わなくてもよいわけではありませんので、近くの地域産業保健センターに確認するのも、良いでしょう。

8 50人以上の事業場は健康診断結果の報告も必要

 常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断を実施した後、その結果について所轄の労働基準監督署長へ報告する必要があります。

 2025年1月1日以降、定期健康診断結果報告は電子申請が義務化されています。

 健康診断を実施しただけで、結果報告を忘れてしまわないよう注意しましょう。

9 まとめ|定期健康診断は「案内して終わり」ではない

 定期健康診断は、会社が従業員に「健康診断を受けてください」と案内するだけで終わるものではありません。

会社としては、

・健康診断の対象者を正しく把握する
・対象者に健康診断を受診させる
・未受診者へ受診を促す
・健康診断の結果を保存・通知する
・異常所見者について医師の意見を聴く
・必要に応じて就業上の措置を講じる
・対象となる事業場では労働基準監督署へ結果を報告する

といった一連の対応が必要です。

 特に、「健康診断の案内はしているが、誰が受診しているか把握していない」「健康診断の結果は保管しているが、異常所見者について医師の意見を聴いていない」といったケースには注意が必要です。

 当事務所では、定期健康診断をはじめ、安全衛生管理や就業規則など、企業の労務管理に関するご相談を承っています。

 元労働基準監督官として200社以上の事業場調査等に携わった経験を踏まえ、法令だけでなく、労働基準監督署の視点も意識した実務的なご提案を行います。

「自社の健康診断の運用に問題がないか確認したい」といった場合は、お気軽にお問い合わせください。

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